2000年10月26日 日刊工業新聞 
 

 創業1945年の伊藤製作所は今年55周年を迎える。漁網機、撚糸(ねんし)機械の部品加工からスタートし、順送りブレス金型へと主力事業を移行。鋭い時代感覚と技術力で常に時代にマッチした事業を展開している。3年前にフィリピンに設立した合弁企業「イトーフォーカス」はすでに黒字経営となり、滑り出しは好調。次の時代を担う事業として伊藤澄夫社長は期待している。伊藤製作所は今年、ISO9002(BVQI)の認証を取得し、名古屋中小企業投資育成会社の投資先となるなど、節目の年。伊藤社長に今後の展開、イトーフォーカスの成功の秘けつなどを聞いた。


-----2000年の今年は節目の年ですが、伊藤製作所の業績はいかがですか。
 「企業30年説ではないが、当社は漁網機で約30年、その間に次の順送りプレス金型に着手し、だんだんと順送りプレス金型の比率が高まり、スムーズに移行してきた。この順送りプレス金型もそろそろ35年。次の柱が本業をカバーするようになるまでは厳しい状態が続く。決して楽ではない」
-----厳しい原因は。
 「自動車関連が主なユーザーだが、お客さんは海外に生産拠点をシフトしている。ユーザーは世界から製品を容易に調達できるようになり、当社としても海外の製品と価格競争力のあるものを作らなくてはいけない。技術力では負けないが、日本の人件費をはじめとするコスト高、慢性の円高、規制の多さなど国内のものづくりはどうしても不利になる。世界で屈指の日本の生産技術がいったん空洞化すれば、二度と日本には戻ってこない。国は製造業の大切さを認識し、巨額の国家赤字、規制や税制のあり方などについて改善、改革をしてほしい。海外企業が日本に進出したいと思うくらいの環境にするべきだと
思う」
-----1SO9002の認証取得、名古屋中小企業投資育成会社の投資先となったことはどんな効果がありますか。
 「伊藤製作所は伊藤家のものではなく、公的でクリーンな企業であることを内外に示すことができた。社員にも『がんばればポストがある』と分かってもらえ、人事の活性化にもつながると思う。そして投資育成会社は最高の経営アドバイザーでもある。1SOの認証
はグローバルな環境の中で競争するにはなくてはならないもの。どちらも会社を強くするための手段の一つだ」
-----では順送りプレス金型に代わる次の柱は。

 「伊藤製作所では現在8割が自動車関連だが、今後はIT(情報技術)関連の分野も伸ばしていきたい。IT分野は自動車部品の10倍の高精度を要求されるものが多く、容易には海外に移転できないだろう。幸運にも順送り金型の基本は同じだ。IT向けの設備投資は積極的に行っていきたい」 

 「国内で海外のライバルと競争できればいいが、現在の環境ではそうは行かないので、フィリピンにイトーフォーカスを設立した。順送り金型の設計製作、プレス部品の加工を行っており、コンピューター、弱電、自動車オーディオなどの部品を手がけている。お客さんは日系、欧米の一流メーカーで、国内だったらとても取り引きできないような会社ばかり。創業から3年近く経過したが、この6月から利益が出るようになり、NC機械などの導入も積極的で、順調に推移している。スタンフォード大卒の現地の社長はこの事業の将来性を高く評価したのか、『会長が次回訪比までに1万5000平方bくらいの工場用土地を探しておく』と言い切った。 

 最新の日本の工作機械、測定器を駆使すれば当然のことであるが、イトーフォーカスは日本とそん色のない精密な金型製作、プレス加工ができる。現地にはこのような会社が少ないため、注文は拡大する一方。設備を更に増強し、伊藤製作所の仕事もシフトするほか、イトーフォーカスから低価格金型を輸入し、お客様に還元しつつ、競争力をつけたい。伊藤製作所ではIT関連部品など高精度な金型製作の研究を進め、徐々にイトーフォーカスが生産拠点として次の時代の中心となるだろう」

-----中小企業が系列でもなく、海外に単独で進出するのは大変なことだと思いますが、イトーフォーカスの成功の秘訣は。
 「海外への進出を10年以上検討した結検討した結果、進出先をフィリピンにしたことが成功の大きな理由の一つ。フィリピンでは小学校から英語を学ぶため、タイなどの国々に比べ意志の疎通がの国々に比べ意志の疎通がうまくいき、一般的にフィリピン人は日本に好意的である。二つ目に人材は恵まれたこと。イトーフォーカスの副社長へン・ドン・リーム氏とは26年来、家族付き合いをしている親友で『だまされるのではないか』といった余計な心配をする必要がまったくないどころか、操業時の特別経費の多くを負担してくれた。また優秀な人材を確保してくれ、これがイトーフォーカスのレベル向上に大きく役立っている。もう1人の副社長の加藤美幸はこちらから派遣したトップクラスの技術者で、信頼してすべてをまかせることができる。本来なら2、3人必要な立ち上げ時に、設計からNC工作機の扱い、金型の仕上げ、メンテナンスやプレスのオペレーティングから経理、人事、品質管理、営業まで1人でこなしてくれた。中小企業では人的にもコスト的にも海外に1人送るのと2、3人送るのは大きな違いで、これは助かった」
-----製造業では世界に最適生産地を求め、グローバル化が進んでいます。伊藤製作所グループはそれぞれどのように連携し、グローバル展開を図っていきますか。
 「日本の金型メーカーは金型製作技術は得意とするが、CAD/CAMを使って設計できる人材は常に不足している。『設計だけしてほしい』というニーズは日本でも海外でも多い。イトーフォーカスで設計者を教育、増員し、伊藤製作所の設計部門であるイートンと連携し、インターネットを使って24時間体制で設計すれば、国も時間も関係なく、グローバルな展開ができる。伊藤製作所でもこれを利用すれば、納期、価格面で優位にたてる」