『日本の製造業の実態』
人口が2%、領土は0.3%に過ぎない日本は世界の15%、中国の5倍のGDPを誇ります。液晶・造船・エコ自動車・ビデオカメラ・半導体・工作機・携帯電話等世界最先端技術を誇る多くの企業があります。それでは今後も中小製造企業が順風で成長するかというと、そうではないのが現状である。
世界は今自由競争の時代に入り、我々の得意先は世界最適調達なる名目で海外生産(海外進出)、海外調達を加速しています。当然の事であるが大企業も利益をあげることが大きな目的であるから自然の流れであろう。
大手製造業は世界に30〜40カ国に生産拠点を持っている例は珍しくない。容易に海外から調達できるルートを有します。しかも生産技術は各国共に年々向上している。我々の受注する価格は常に海外価格と比べられる。得意先が国の税収、雇用機会、取引先の立場だけを考慮していれば、国際競争に勝てないから当然の経済行為といえる。
"技術がある・得意先に実績がある・過去何年も利益が出た・先端設備、製造ノーハウを保有する・ISO等多くの資格を持つ"これらの条件を満たしていてもよほどの企業でないと国内での存続は困難と予想される。
もし、当社にオンリーワンの技術があれば海外に進出する必要はない。出来る事なら国内だけのフィールドで経営したいと思っている。中小企業でも平均年収が500万円の時代に、当社のような並の技術の製造業は近い将来苦戦を強いられる事は必至である。
既に50%以上の同業は欠損を出している。今廃業をすれば社員に迷惑をかけずに済むと決断しても、肝心の土地が思う価格で売れないため、止めるに止められない企業が多く存在する。
苦戦の理由として@高物価体質 A空洞化 B規制の多さ C巨額の国家財政赤字 この巨額の赤字は減税どころか将来形を変え、企業や国民に今まで以上に何らかの負担が掛かってくると考えるべきです。例えば:消費税の増税・商法の改正・社会保険料増・医療費の負担増・酒、タバコ増税などが考えられる。
税法改正の一例だが、一昨年より建物の減価償却方法で定率法が無くなり、定額法だけになった。"海外のライバル企業との競争に負けろ!"と国が仕向けているような改正である。常に数年間で勝負しなくてはいけないIT先端技術関係の企業には、やる気をなくすような改正であろう。金の卵を産む鳥を生かし続けて欲しいものである。
中小企業が苦戦を強いられる日本のハンディーをゴルフに例えると:日本のハンディー・キャップが3、アメリカが1とする。夜も寝ずに働き、改善、練習をしてもハンディー2にはなり難い。一方アジアのハンディーが仮に25としよう。練習もせずに月に2〜3回コースに出るだけでハンディーは上がり続けるだろう。経済も右肩上がりが大切なのです。そこに労働市場、ビジネスチャンス、個人消費による生活の向上、設備投資、税収増加により国の発展が生まれます。日本の製造業のハンディーとは、前記の高物価と高い税金である。きつ過ぎるハンディーのシングルプレーヤーは海外進出することで、ハンディーを下げてへたくそなプレーヤーとゴルフをしたいのです。発展途上国で日本と同じ経営努力をすれば大きな利益と成長が期待できます。
一方アメリカはハンディー1としても覇権・軍事力・膨大な資源・リーダーシップ・外交の強さで21世紀も強さを維持するでしょう。
『海外進出の動機』
@ 27年間中国系フィリピン人と親密な付き合いをしていたリム氏の存在。
A 各国政府、大手製造業は日本の製造業、金型屋の進出を歓迎している。特に東南アジアの企業は日本の金型製造業との合弁を望んでいる。
B 今なら、アジアのどの国に進出しても技術が確かであれば、受注の心配はないが、年々同業者は増えつつある。
C 世界の趨勢は、国際価格競争、現地生産、現地販売が基本であるから、今後も空洞化は避けられない。
D 人材確保。国内企業の存続。技術の保存。マーケット拡大。資産,天災の分散。
E 社員の国際化と情報の収集。
F 高物価、高い税金と多すぎる規制。
『何故フィリピンなのか』
@ アジアの中心の立地。ラモス大統領がインフラを建て直し本格的に外資を導入し、経済発展のスタートは1994年からである。60年代には日本についでアジアでは 2番目の自動車生産国であった。そのためなのか、後で分かった事だがこの国の労働者の製造センスは非常に良い。
A 他のアジア各国が6%前後の大学卒であるのに対して、フィリピンでは28%で教育に熱心な国である。従って中小企業でも優秀な人材を抱負に採用できる。高度な技術を必要とする金型企業には極めてありがたい。
B アメリカナイズされ日本の文化と違和感はない。440年間植民地だったせいか教育次第では、忠実でよく働き、明るく日本人好きである。
C タガログ語(フィリピン語)の教科書がなく、全ての科目を英語で勉強するため、語学力は極めて高い。
D 賃金が安い事を大歓迎とは思っていないが、現在日給は520円くらい。最低賃金は最高賃金である。例えば、隣の会社が550円支給しているから、当社は600円払うなんて例はない。一流大卒で日給1200円程度。
E 治安の悪さをよく言われるが、国内の事件を振り返れば、他国の事を批判できない。
『海外進出するには』
@ 海外視察や(団体での視察は何回行ってもあまり意味がありません)海外情報を収集できるルートを持ち、どんなビジネスが、どこの国が良いのか、為替のタイミング等、時期も考慮して決める。進出後3〜4年間は赤字が出るため、しばらく日本から援護できる体力が必要である。
A 中小企業でも単独で進出するには多数の派遣員が必要である。又、日本人だけでは文化・宗教・語学・経営・人事等解決できない問題も多い。経費も膨大になるので、信頼できるパートナーを持つのが最善であろう。当社は経理・購買・人事のみ任せている。海外経営を充分経験した後、単独出資の会社設立が最も良い方法であろう。
B 日本人駐在員が一人増えるごとに100万円以上の出費となるので、幅広い知識、技術を持つ駐在員を派遣できるか。これが中小企業でいつも問題になる。駐在後6ヶ月位でだれでもノイローゼになる。それを乗り切れる強い精神力が必要である。
C それなりの英語力が必要である。
『終わりに』
現在世界無敵の日本の生産技術、ノーハウが一旦空洞化すれば二度と日本に戻ってこない、やり直しが利かないことを危惧している。
日本の賃金が中国やアジアの5倍であれば、多くの製造業は勝負できる自信があるというでしょう。現状では20倍であるから努力の限界を超えている。並の製造業ではコスト競争での勝ち目はない。
空洞化といえばハイテクばかりではない。日本古来の民芸品、多くの地場の伝統商品(三重県では魚網、鋳物、万古焼き)ですら悔しいが中国やアジア各国で生産され逆輸入されている。
これほど具体的に国家的損害がはっきりしていても、今だ「時短をしないと中小企業は良い人材が取れない」なんて世界的に見て、この時代に適応しない考え方を取り下げようともしない。
アジアで日本人だけがたくさん休暇を取り、今まで以上に良い生活が出来るという考え方を海外から見れば日本人の傲慢と見られるであろう。生産拠点の移動(空洞化)を日本自らが仕向けてしまった。
我々小規模企業は長時間働き、海外から取られた仕事を取り戻したい。又、得意先に安く納入して、生産のフィールドを国内に残していただきたいのです。
本音で言えば文化、言葉、宗教、食べ物、気候の異なる外国に行ってまで、経営をしたくはないのである。
空洞化が進み新卒者が卒業後就職も出来なくなるほどの最悪の経済構造になっても、一旦外に出たものは取り戻せないのです。
政府は色んな規則を定める事は良いが、点で見るのではなく、今後は線で見ていただきたい。時短の結果が悪い方に出たから、これに1兆円の助成金を支給することにしても、何の効果も出ないのでないか。
今後は、現場で苦労している民間の声にもっと耳を傾け、現状の把握と将来どうなるかを予想して条例や規則を定めていただきたいものである。
円高で苦しんでいて、戦後最もタイミングの悪い時期に、時短を強制し更に生産コストを上げたのが、空洞化に輪をかけたと言えばいいすぎだろうか。
8年前の話だが、大企業のトップは「既に2000時間をクリヤーしていた事と、企業イメージもあり決してこれら(時短)に反対はしなかったが、更なる海外進出を決意した」と言う。
ドイツの金型工業会役員(公務員)の話。「国や王様が国民に働くなと命じて発展した国が、歴史的にあるのか?日本の政府は変だ」ドイツは国や企業は反対したが、ユニヨンに押し切られた。今は、時短の後遺症で空洞化、失業等の問題を抱かえている。
(金型専門誌で紹介済み)
国家が大ピンチである今こそ与・野党、官僚が一枚岩になり、資源のないこの国で製造業がいかに大切か、いかに国が大変な状況にあるかを真剣に認識いただき、規制緩和、税法・法令の見直し、巨額の財政赤字等の問題を解決しなければ、取り返しのつかない時期に来ていると認識している。
又、国の発展、雇用機会、税収を考慮すれば国や県、金融機関の海外進出奨励の講習会等より、海外企業の日本への投資や、我々が国内で事業拡大するほうが得策であると考えられるような魅力のある国にするため、産・学・官一体となって何をすべきかを真剣に取り上げ、ご指導を頂きたい。
-----手を打つ時間の余裕はほとんどありません-----