1996年5月8日 中日新聞 
 

企業は競争力を高めるために、コスト削減に頭をひねる。その方法は多種多様だ。
広さ330平方メートル。窓が一つもない工場内に、工具を100本、120本と収容し自動交換するマシニングセンター8台がずらり。24時間稼動で社員が帰った後の夜間も、マシニングセンターが止まることはない。

三重県四日市市の自動車、家電製品などのプレス金型メーカーの伊藤製作所。金型メーカーには珍しいその省力化設備の充実ぶりは、企業研究に詳しい大学の専門家さえも目を見張る。
「うちのような中小企業でこれほど設備投資に金をかけているケースは少ない」と社長の伊藤澄夫(53)さんはいう。その脳裏には、人件費の低い東南アジア諸国と日本との賃金差が焼きついている。「東南アジアの賃金が日本の十分の一ならば、日本は東南アジアの十倍の生産性をあげなければならない。」工場自動化の積極的な設備投資は、その答えというわけだ。

1,982年に最初のマシニングセンターとCAMを、翌年には金型のCAD(コンピュータ支援設計・製造システム)を導入した。年商が10億円だったころに、3年間に投じた設備費は3億5000万円に上る。
この投資によって現在、従業員は63人と、30年間にわずか13人、率にして20%しか増えていない。ところが、年間売上高は4倍の20億円弱に増加した。

部品メーカーにとって、技術のかなめといわれるのが金型技術だ。熟練が求められ、腕に覚えのある技術者達が幅を利かせていた世界で「頭の固い人が多かった」と伊藤さんは言う。業界にそんな習わしを打ち破り、合理化をいち早く突き進めた。