「金型自動設計システム」導入
「CAD/CAM自動設計の実際と工場見学会」と銘打った技術研修会が5月16,17日と23,24日の4日間、三重県四日市市の伊藤製作所で行なわれた。この研修会では金型設計時間を100分の1に短縮した究極の金型自動設計システムが初めて公開されるとあって金型メーカー、大手メーカーの担当者ら抽選で選ばれた60人が詰め掛け、実演に釘付けになった。
同社自慢のこの金型自動設計システム、実はまだ一般市場に出回っていないもの。しかし、その機能は、例えばプレス順送り金型の設計がレイアウト後で早くて20時間かかっていたものが、たった3分で完了するというスグレもの。総従業員64人の中堅企業にしてこのような革新的な生産系統の構築をなしえた原動力は何か。
伊藤製作所の創業は1945年。先代・伊藤正一氏が漁網機械のシャトル(舟型)と呼ばれる部品作りを始めたのがスタートだ。この部品を生産しているのはわが国では同社一社だけで、現在世界の60%を供給しているという。プレス順送り金型の生産を開始したのは1964年。
さて、同社のCAD/CAM導入の流れを見てみよう。第一ステップは83年のCAMシステムの導入。最初は設計より現場の生産の合理化に着手したのだ。この半年後に16ビットCAD/CAM(サムシステム)を入れ、更に87年に32ビットのシステムを3台導入した。この時点で同社の金型設計で手書きの部分は全くなくなり、全てシステムによる設計製作に切り替わった。この間、例えばATC100本を備えるマシニングセンター活用など独自の効率化の追求も行なっている。とはいえ、やはり同社の技術革新の真骨頂はなんと言ってもCAD/CAMにある。
同社の現在の金型造りを従来のそれと比較しながら見ていこう。金型設計での展開図、レイアウト図はそれこそ作り手のノーハウで一律には求めにくいが展開寸法を出し、穴の位置、曲げ位置などのスケルトンを決定するのに5時間。このあと図面を描くのに20時間以上を要する。
具体的には80トン用のプレス金型だと、まずプレス仕様を決定するトン数、突合せ位置が出され、ここからU溝の締め付け、幅、高さ、材料の送り線など打ち込みが行なわれる。さらにプレート枚数の打ち込み−80トンでは約20枚、小さなブロックを含めると約50枚に上る−を行い、次に締め付けボルトの入力、平均すると20〜30箇所を入力する。ダイ側だけでこれだけの入力になり、パンチを合わせると80から120箇所もの締め付けボルトの入力作業が続く。
この他ノックピン(1型平均20本)、ガイドポスト12本)、バネ類14〜18本)、吊ボルト(12本)、ガイドリフター、払いピンといった作業があり、又、パンチの選択という厄介なものを越さなければならない。
このような煩わしい作業がわずか3分で終了してしまうというのだから驚異的な時間短縮だ。
このソフトを導入したのは昨年末の事。既設のシステムに組み込んでテストを行なった結果、約1ヶ月で金型部品の配置という工程時間が先に見たような超短時間で可能になった。
新ソフトの活用により、
@入力時間の大幅な削減
A展開ミス、入力ミスの根絶
B教育時間の短縮
C打ち合わせから図面完了までのリードタイムが6日から1.5日に短縮 D設計人員を削減でき人手不足に対応できる−などの経営上数々のメリットが得られたという。
企業戦略の革新ツールとしてCAD/CAMが位置づけられる中で、その最先端をいく事例として同社の展開が注目される。