−アジアの金型・プレス業界動向−
アジアジャーナリスト 松田 健
6100万の人口を抱えるタイ市場に加えて、近隣諸国の市場を狙う自動車生産が底を脱している。タイの自動車生産は、96年に59万台、97年に36万台、98年が14万台で、99年は21万8000台まで回復した。まだ96年水準の3分の1程度に過ぎないが、2000年には約20万台近くに伸びると見られる。
このため従来は独壇場だった日系自動車メーカーのタイ市場に外資の進出が相次いでおり、今月(5月)は、米国のGMとドイツのBMWが相次ぎ初のタイ生産が開始されている。GMは多用途ミニバンである「シボレー・ザフィラ」を今年は8000台、2001年からは4万台を生産する。BMWは高級車種である「3181」などを年1万台で生産開始したが、両社ともタイから他のアセアンや豪州などの輸出市場も狙う。
タイではローカルコンテンツ(部品調達率)の義務付け(乗用車の場合は54%だった)規制を2000年1月から撤廃した。タイのGMやBMWでは当面は、昨年まで規制されていた部品調達率の義務付け数字は達成できそうにはないが、タイ製プレス部品を採用する自動車メーカーが増える傾向にあり部品調達率は高まりそうである。
−フィリピンでプレス部品を専業としては独占生産する伊藤製作所−
タイと違って、フィリピンでは精密プレス部品が生産できる専業企業は数社しかない。そこで自動車や家電などの外資メーカーからの金属プレス受注で大成功しているイトーフォーカスという日系企業がある。同社は伊藤製作所・伊藤澄夫社長のフィリピン法人で、マニラの工場で金属プレスと順送り金型で成功している。CAD/CAMシステム始め、欧州から空輸で購入した新型CNC工作機を多数導入している。
創業2年半にあたる99年12月、イトーフォーカスでは盛大に披露パーティーをマニラで開催した。「顧客は松下グループのMEPCO、ドイツのテレファンケン、デンソー、トヨタ、富士通テンやホンダ系といった、日本では中小企業の当社なんか相手にしてくれない大会社です。能力増強と営業活動を増やせば受注に心配はないが、急に事業を拡大すれば社員教育との兼ね合いで、問題があるので無理しない範囲で拡大する」(マニラで伊藤社長)方針だ。日本の伊藤製作所より上回る時代が来るのでは、と伊藤社長に聞いてみたところ、「フィリピンの利益率は抜群で上場もありえます」と即答した。