不良品をゼロに
"やっと、モノにした"とうれしそうな伊藤澄夫社長の笑顔。それども新鋭機導入の苦労が十分に伺われる。伊藤製作所は3月に金型プレート加工合理化のため、高速縦型マシニングセンターを導入。性能にほれての特注品だったが、実際に効果を発揮するまでには相当の工夫が必要だった。しかし不良品を出さずに生産の大幅な効率化に成功した。
同社は自動車向けを中心とするプレス部品や金型、金型プレートおよび漁網機械を生産・加工。
新規導入したのはスピンドル径50番、毎分8000回転の高速縦型MC「VK65U」(日立精機)だ。計画では超硬ドリルを使用し、加工時間を既設のMC比べて10分の1、エンドミルで3分の1に短縮。4パレットの縦型パレットチェンジャーを特別注文し、夜間無人運転するはずだった。
「加工時間を大幅短縮 新鋭機 工夫凝らし効果発揮」
このため、位置決めのくぼみを付けるセンタードリル加工や工具を減らし、切り粉を除去するステップフィードも省略した。センターレスドリルや70気圧の高圧クーラントを使えば、可能だと考えた。
ところが、実際には送り速度が速いため、センタードリル加工しないと、工具の磨耗とともに、工具の先端が振れ、加工穴入り口が工具径より大きくなる。また、プレートの材質によっては、切り粉がドリルに巻きつくトラブルも発生した。
試行錯誤の連続
結局、製品の品質を上げるためセンタードリル加工を復活させた。ステップフィードも0.1ミリだけ行い、切り粉の巻きつきを防いだ。さらに直径10ミリ以上の穴加工は超硬ドリルの価格の高いことやいろいろな材質のプレートに対応しやすいという理由でコーティング・ハイス仕様に戻った。
加工を制御するプログラムも工夫。新しいMCと従来のMC7台を同じプログラムで動かすため、「新しいMCのユーザーマクロだけを変更した」(稲垣朋彦技術係長)という。新しい標準プログラムを作るには手間も費用もかかる。それを避けるため、従来のプログラムを生かしたのだ。
稼動条件見いだす
セッティングに2ヶ月を費やし、5月中旬から新しいMCが動き始めた。ドリル加工時間は従来に比べ4〜5分の1、エンドミルは2分の1に短縮できた。新鋭機が持つ多様な機能な機能や性能を使い切ることは実際にはなかなか難しいことだ。高機能機を導入すれば自然に合理化できるものでない。同社の場合、試行錯誤を繰り返しながら、その中で自社の機械加工に最適な稼動条件を見つけるのに力を注いだ。
伊藤社長は「負け惜しみかもしれないが不良品を出さないための最善の措置。それでも従来より加工スピードは格段に速くなった」と嬉しそうだ。機械に対する習熟度が上がれば、さらに改善は進むと余裕を見せる。