1991年1月号 金型ジャーナル 
 

「究極の金型自動設計システム」

―プレス順送金型が、レイアウト後の設計時間3分―

プレスの順送金型の金型設計がレイアウト後で従来早くて20時間を要していたものが、わずか3分間で完了するという驚異的な金型設計時間で処理できた。といったら、アナタは信じますか? が、現実に32BKコンピュータ内臓のCAD/CAMシステムがプレス順送金型・同加工メーカーに導入され、わずか1ヶ月で実現し、現在CAD/CAM 3セットのうち、完全に1台はフル稼働、2セット、3セット目の稼動も時間の問題という"革命的"なソフトウエアが活用されている。導入したのは伊藤製作所(四日市市)。このシステムは、まだ、一般市場には出回っておらず、販売戦略を立てる以前に活用されたものとして、これから注目を浴びる武器。

ダイセット、プレート回り、パーツが自動発生

プレスの順送金型(単発型も可)の設計は、展開図、レイアウトを作成したあともダイセット回りの細かな構造(金型部品の配置)データをCADに入力するだけでも相当な時間がかかるもの。最低でも20時間といわれ、この工程は、本来金型の設計者は敬遠したい作業だが、このプロセスを踏まないと金型図面は完了しないという悩みがあった。

一般にプレス金型の設計工程で、レイアウトが完了した後、プレスのトン数、突合せ位置に従いプレートや締め付けボルト、ノックピン、ガイドポスト、さらにはバネ類、吊ボルト、あるいはパンチといった設計者にとっては煩わしい作業が山済みされ、これだけでも、CADに入力するのに平均20時間を要していたという。

プレス金型・同加工メーカーの伊藤製作所が昨年11月末に、従来から導入していたCAD/CAM「サムシステム・Dシリーズ」に、新たに同システムの設計ソフトを組み込んでテストをしたところ、1ヶ月そこそこで、展開図やレイアウト図といった金型の重要基本部分を省いた、いわゆる設計時間が同社でも20時間、時には40時間かかるものもあった。

これを同社がいままで活用していたCAD/CAMにバージョンアップされたこのソフトを組み込み、あらかじめ金型構造・プレス仕様を入力してテストしたところ、組み図、部品図、加工データ出力前までが3分という驚異的な短時間で終了した。20時間がわずか3分という事は100分の1以下になったということになる。なぜ、こんな信じられないような作業工程が構築できたのか。

一般に市販されているCAD/CAMは、それぞれの企業が最も使いやすいか、独自の生産ラインにマッチしたソフトを選択し投資するか、あるいは時代の流れに遅れてはと、機能や能率・効果など深く考慮せずに導入したというケースが多い。ここでよく問題になるのが、"あのシステムは使いやすい、いや、うちは入れてみたが効果は出なかった"といった千差万別の評価が出る事。

したがって、商品としてのCAD/CAMは良いもの悪いものが利用サイドで分かれ、これから導入しようとする利用者がかなり戸惑いを見せた事も事実。実際に初期のサムシステムを導入したある中堅のプレスの順送金型メーカーでは使いこなせなかったのか、使いこなす人材が不在だったのか、結果は設計としての効果が出ずにいた。それでは今回の伊藤製作所はどうだったのか。

83年にCAMを先に導入した理由は、設計の合理化より、加工の合理化を先に進めたほうが利益に貢献できると判断したもの。また、当時の16ビットCADの能力では、全体の30%しか設計できない。70%は手書きという事になる。

マシニング、ワイヤカットを完璧に使いこなし、合理化効果が出始めた半年後に、CAD/CAMを導入した。4年後の87年に32ビットCAD/CAMを3台導入し、16ビットは廃却。この時点で、手書き図面は皆無となった。

これまでのプロセスの中で、特に同社のもう一つの変わった点といえば、MCに工具数100本という大量のATCを備え効率的にこなしたという点。円高を契機とした時代の流れを読み、国内外で他社との差別化をしていくために、前向きの設備投資によるサバイバルの道を選んだ。

「円高の時に多くの金型屋は値段を叩かれ赤字を出しました。したがって、前向きな設備をする環境にはありませんでした。しかし、このままだったら追いかけてくる国の金型屋に、日本が今後も差をつけていく事だって難しくなる」

「"素人でも、製品図面を挿入すれば、金型図面や加工データが出てくる"といった夢の話題はさておき、CADの進化を常々期待していた」

これがこのほど取り入れたサムシステムの"究極の自動設計CAD/CAMシステム"である。

同社はこの新ソフトを導入する前も従来のCAD/CAM3セットで大幅な効果を挙げ、同システムの有効利用率100%を発揮、同業他社に比べても前向きに経営を展開してきた。が、さらにこの上を行く前向き投資となれば、これはもう差別化戦略。そこの突然現れたのがこのシステムの設計新ソフト(バージョンアップ)というわけだ。

市場価格未定の新武器

金型の設計における展開図、レイアウト図は、金型製作側のノーハウ。従って、この基本工程は企業間格差があり、金型の種類によっても多少の差はあるが、これは手書きでもCADでも展開寸法を出し、穴の位置、曲げの位置といったレイアウトを決めるのは何処の金型屋も同じ。普通、営業、金型仕様打ち合わせで5時間はかかる。

問題はこのあと加工データが出てくるまでの図面を画く時間の差。これは設計者にとってわずらわしく、平均20時間以上も要するという。

展開図、レイアウト図後の工程を同社の一例で見ると、プレス仕様を決めるとトン数、つき合わせる位置が出てくる。ここからV溝などの締め付け、幅、高さ、材料の送り線などをプレス仕様などを見ながら転記して打ち込みが開始される。さて、ここからがさらに大変な作業。

まず、同社の80トン用順送金型によるとプレートの枚数は20枚程度。パンチとか小さなブロックまで入れると50個も打ち込まなければならない。次に締め付けボルトが上、下型、ダイセットまで入れると100箇所以上。ノックピン、ガイドポストという気の遠くなるような入力作業が続く。さらにバネ類、吊ボルト、ガイドリフターとか、パイロットの払いピンと続く。

これだけの工程をコンピュータと向かい合って、時には考え込む時間も含め長時間挑戦していくと、どれだけコンピュータが正しくとも、人間の入力ミスという人為的な問題が発生する。このわずらわしい工程が、わずか3分で消化できるという事は、トータル設計時間の大幅短縮になるではないか。

20時間かかっていたものがわずか3分になるという事は、単に20時間の時間短縮ではなく、それ以上の効果を挙げている。
設計するにも、加工データを出力するために、入力時間はなるべく少ない方が入力ミスを防げるという事。それと、金型設計者として、展開図やレイアウトの部分が最も技術、経験を必要とするところ。プレートやパーツの入力する事には、技術力を必要としない部分である。

また、自動設計システムを使うことにより、多くの金型設計をこなす事ができるので、同じ期間にそれだけ多くの設計ができるため、技術力がつくようになった。最後に細かい入力をする手続きを覚える必要がないため、汎用CADより早くCADを使いこなす事ができたなど、副効果も多い。