2004年10月15日 日経産業新聞 
 

 国内のメーカーでは開発や設計は国内、製造は中国など海外というのが常識になっているが、知恵を絞れば逆も成り立つ。順送り金型・部品メーカーの伊藤製作所(三重県四日市市、伊藤澄夫社長)はフィリピンで金型を設計、国内で無人加工という手法を編みだし成果を上げている

 伊藤製作所は40年前にプレス金型に進出。CAD(コンピューターによる設計)で作成したデータをそのままNC(数値制御)工作機械の操作に使える独自のシステムを導入し、効率的に金型を製造してきた。7台のマシニングセンターにはあらかじめ120本もの工具を備えて、付け替えの手間をなくし、夜間には無人運転する

 同社が作る金型は自動車の電装品や電気製品など小型部品用順送り金型が中心。この金型を使ったプレス部品の生産も手がけ、売り上げの7割を占める。部品生産も徹底した効率化に取り組み、約60台の自動プレス機を8人の従業員が扱う。

 このうち25台は『パーマネントセット』と名付けた月間15万個以上製造する量産品用で、メンテナンス以外は長期間金型を外さない。

 使うのは月に6日程度だが、調整などの手間が省けるので大幅なコストダウンになる。品質の維持にも役立つ。「機械は休んでもいいが、人は休まない」というのが伊藤社長の経営哲学だ。

 フィリピンに現地法人を設立し、金型とプレス部品の生産を始めたのは6年半前。海外拠点としてフィリピンを選んだのは、「ほとんどの人が英語を話すので、技術者の教育が容易。大学卒の比率が高く、優秀な人材を低コストで確保しやすい」(伊藤社長)ためだ。

 実際、金型設計者を素早く育成することができた。現在、3人の設計者が現地用に約3型設計しているが、余力があるので日本向けに月に3〜6型設計する。国内では3人の設計者が月間約15型設計しており、すでにフィリピンは重要な設計拠点に育ちつつある。

 「今の技術レベルは中位だが、能力はどんどん高まっている。設計者の数を増やし、ゆくゆくはフィリピンを設計センターにしたい」(伊藤社長)一方、国内の設計部門は、より高度な金型設計に取り組む。

 国内の生産能力も強化する。従来より大型の部品を生産するため大型のプレス設備(400トン、600トンプレス機)を備えた新工場を建設中のほか、金型交換不要のパーマネントセットの増設にも取り組む。フィリピンでの設計と組み合わせた常識破りの生産はさらに拡大する。